女性社員の健康課題、栃木の中小企業はどう支える?
栃木県内の中小企業で人事や総務を担当されている方にとって、女性社員の健康にどう関わればよいかは、判断に迷いやすいテーマではないでしょうか。
更年期や月経、がん検診といったテーマは、本人にとってもデリケートで、会社側もどう関わればよいか迷いやすい分野です。
この記事では、産業医としての実例をもとに、栃木・宇都宮の中小企業が今日から取り組める対応を整理します。
📋 この記事の目次
- 女性の健康課題は「本人が言い出さない」ところから始まる
- 「がんと診断されたらどうすればいい?」経営者からの相談
- 更年期以降の「あちこち痛い」を整形外科医はどう見るか
- 放置すると企業が被るリスクと、健診の問診に加わる「女性の健康」
- 栃木の中小企業が今日からできる3ステップ
- 産業医にできること・できないこと
女性の健康課題は「本人が言い出さない」ところから始まる
女性の健康課題は本人が主訴として相談してくることがほとんどなく、会社側からの働きかけが欠かせません。

産業医面談で主訴になることは、ほとんどない
私自身、これまでの面談で女性の健康課題を最初の相談内容として聞くことはほぼありませんでした。
あるとすれば、メンタル不調に関する面談の中で、月経や更年期の話が少し出てくる程度です。
ある方の復職面談では、休職のきっかけになった身体症状(めまい感など)は改善傾向で、なんとなくフワフワする感じが少し残っていた頃に、ご本人から「更年期も影響しているのかな」という言葉が出たことがあります。
私から更年期の話を切り出したわけではありません。その場では婦人科の受診をおすすめしました。
本人が言い出さないからといって、問題がないとは限らない、ということが分かる出来事でした。
月経・更年期・がん検診——3つの課題と仕事への影響
月経随伴症状(月経痛やPMS=月経前症候群など、月経に伴って起こる心身の不調)は集中力低下につながります。
更年期症状(ほてり・不眠・気分の落ち込みなど)は、管理職世代の女性に重なりやすい時期でもあります。
乳がんや子宮頸がんは、比較的若い年代から罹患する可能性があるがんとして知られています。
言い出しにくい理由と、健診で分かること・分からないこと
産業医が男性であることや「分かってもらえない」と感じることが、言い出しにくさの背景にあるのかもしれないと感じています。
評価に影響しないか不安に思う方もいるでしょう。
労働安全衛生規則第44条が定める定期健康診断の項目に、月経や更年期に関する項目は含まれていません。
婦人科検診も法定項目には入っていないため、会社側から案内しない限り受診の機会は生まれにくいのが実情です。
💡 ポイント:「健診をしているから大丈夫」ではなく、法定項目の範囲を正しく理解しておきましょう。
「がんと診断されたらどうすればいい?」経営者からの相談
検診を勧めるだけでなく、陽性となった後の道筋まで会社が準備しておくことが、社員の安心につながります。

会社が検診を勧めても、受診率はすぐには上がらない
社員全体に乳がん検診を勧めても、なかなか受診率が上がらないという悩みもあります。
乳がん検診は法律上必ず受けなければならない検診ではないため、会社からの後押しが受診のきっかけになります。
診断された社員への対応——治療と仕事の両立支援の基本
検診で「要精密検査」と言われても、それはがんの確定診断ではありません。検診には偽陽性もあります。
一方で、要精検の結果が出た場合は、必ず精密検査を受けていただくことが前提です。
「見つかるのが怖い」という気持ちを否定せず、要精検から乳腺外科等の受診、追加検査、結果説明までの流れを案内できると安心につながります。
がん検診の結果は要配慮個人情報にあたり、本人の同意なく上司などに共有してはいけません。
労働施策総合推進法の改正により、2026年4月から治療と仕事の両立支援が事業主の努力義務になりました。詳しくは治療しながら働ける会社へ!2026年4月から義務化でも解説しています。
受診率を上げるために中小企業ができること
就業時間内に検診を受けられるようにする、費用の一部を補助するといった対応が、受診のきっかけになります。
宇都宮市や栃木県内の各市町が実施しているがん検診制度を案内窓口として紹介するのも一つの方法です。詳細は各自治体の公式サイトでご確認ください。
健康経営優良法人の認定でも、女性の健康保持・増進への取り組みは評価項目のひとつです。
受診率向上の考え方は二次健診の受診率、栃木の会社はどう上げる?も参考になります。
取り組みの全体像は健康経営とは?栃木の中小企業経営者が知るべき基本と始め方でも紹介しています。
💡 ポイント:検診を「案内するだけ」で終わらせず、陽性後の道筋まで準備しておきましょう。
更年期以降の「あちこち痛い」を整形外科医はどう見るか
更年期以降の関節痛や骨折リスクは、整形外科と産業医の両方の視点で向き合う必要があります。
関節痛・不定愁訴と、痛みを我慢して働く人たち
これは産業医面談ではなく、整形外科の外来での実感です。関節痛や原因のはっきりしない不定愁訴を訴える方が多い印象があります。
「更年期だしね」と、多少の痛みを受け入れて我慢しながら働いている方が少なくありません。
私からは「更年期のせい」とは言いませんが、ご本人が「更年期かも」と口にしたときは、整形外科に加えて婦人科の受診もすすめています。
骨粗しょう症・骨折リスクと、職場で気をつけたいこと
閉経後はエストロゲン(女性ホルモンの一種)の低下により、骨密度が下がりやすくなります。
職場での滑りや、重い物を持った際の骨折につながることもあります。
運動習慣が乏しいとつまずきやすくなるため、転倒防止とロコモ体操などの運動を勧めています。
介護・製造・小売など、立ち仕事や重量物を扱う職場では特に注意が必要です。
職場での予防については腰痛予防対策、宇都宮の企業は何をすべきですか?もあわせてご覧ください。
整形外科の症状と更年期の関係を、職場はどう考えるか
痛みの原因は更年期だけでなく、加齢や作業負荷が重なっていることも少なくありません。
「歳のせい」と我慢してしまっているケースもあるため、産業医としては主治医への受診勧奨を心がけています。
本当に病的だと感じたときは主治医に判断を委ね、主治医から就労の許可が出た後は、どう働けるようにするかを考えるのが産業医の役割です。
💡 ポイント:痛みを我慢させず、整形外科と婦人科の両方の受診につなげる視点を持ちましょう。
放置すると企業が被るリスクと、健診の問診に加わる「女性の健康」
女性の健康課題を放置すると人材の離職につながりかねず、健診の問診も変わりつつあることを知っておく必要があります。

労働損失・離職リスク
体調不良を抱えたまま出社し、パフォーマンスが落ちている状態はプレゼンティーイズム(出社しているが本来の力を発揮できない状態)と呼ばれます。
特に中小企業では、経験を積んだベテラン女性社員が離職すると、代わりの人材を確保しにくいという課題があります。
ベテラン社員が働き続けられる職場づくりは、人材確保の面でも会社の力になります。
健診の問診に「女性特有の健康課題」の質問——会社に結果は来ない
厚生労働省は2026年1月19日、「女性特有の健康課題に関する問診」に関する健診機関向け・事業者向けのマニュアルを公表しました。
問診では「女性特有の健康課題(月経困難症、月経前症候群、更年期障害など)で職場において困っていることがありますか」を、はい・いいえで尋ねます。
「はい」と回答した場合、健診担当医から情報提供や専門医への受診勧奨が行われる仕組みです。
この問診は事業者の義務ではなく任意で、回答内容が健診機関から会社に直接提供されることはありません。
集計結果は労働者への説明のうえで会社が把握できますが、10人未満など個人が特定されやすい場合は提供されません。
⚠️ 注意:「義務化された」と誤解されがちですが、現時点では任意の取り組みです。
栃木の中小企業が今日からできる3ステップ
知る・相談先をつくる・環境を整えるの3ステップで、大きな費用をかけずに着手できます。
知る——管理職が「体調」を話題にできる空気をつくる
女性だけでなく男性の管理職も対象にした社内研修を行うと、理解が広がりやすくなります。
厚生労働省や経済産業省は、無料で使える研修教材を公開しています。
「体調が悪ければ言っていい」という姿勢を、社内で明文化しておくことをおすすめします。
相談先をつくる——産業医・栃木産業保健総合支援センター・50人未満は地さんぽ
まずは契約している産業医への相談ルートを、社員に周知しておくことが基本です。
栃木産業保健総合支援センターでは、事業者向けの無料相談を受け付けています。
従業員50人未満の事業場は、地域産業保健センター(通称:地さんぽ)を利用できます。
窓口の詳細や連絡先は、各センターの公式サイトでご確認ください。
50人未満の事業場の相談先は就業判定は50人未満も義務?宇都宮の相談先ガイドでも整理しています。
環境を整える——製造業など現場型でもできる工夫
栃木県内には製造業や卸売・小売業など、現場での作業が中心の職場も多くあります。
体調に応じた休憩の取りやすさ、時差出勤、作業の交代といった工夫は現場型の職場でも導入しやすい方法です。
労働基準法第68条が定める生理休暇は、取得の際に有給か無給かは会社の定めによります。制度の周知と運用の見直しも大切です。
検診についても、就業時間内に受診できる仕組みを整えておきましょう。
💡 ポイント:費用のかからない「知る」ステップから始め、少しずつ環境整備につなげましょう。
産業医にできること・できないこと
産業医は診断や治療は行わず、就業上の配慮を会社に助言する立場です。
診断・治療はしない。就業上の配慮を助言する立場
産業医は診断や治療を行う立場ではなく、時短勤務や作業転換といった就業上の措置を会社に意見する役割を担います。
面談の内容は本人の同意と守秘義務のもとで扱われ、会社には業務上必要な範囲の情報だけが伝えられます。
主治医と職場をつなぐ/相談を「メンタル」の枠で終わらせない
婦人科や整形外科の主治医と職場をつなぐことも、産業医の大切な役割のひとつです。
メンタル不調の面談の中で月経や更年期の話が出てきたときこそ、拾い上げるチャンスだと感じています。
女性の健康課題は、全国労働衛生週間などの取り組みの中でも重点事項として取り上げられています。
まずは自社の産業医や衛生委員会に、女性の健康課題を議題として取り上げてもらうところから始めてみてはいかがでしょうか。
💡 ポイント:「メンタルの相談」の裏にある体の悩みまで拾える体制づくりが、離職防止につながります。
よくある質問
Q. 産業医は女性特有の健康課題について、どこまで対応してくれますか?
A. 診断や治療は行いませんが、婦人科などへの受診勧奨や、就業上の配慮について会社に助言することができます。
Q. 健診の問診に女性の健康課題の質問が増えると聞きましたが、会社に結果は伝わりますか?
A. 事業者の義務ではなく任意の取り組みで、回答内容が健診機関から会社に直接伝わることはありません。
Q. 従業員から更年期の相談を受けたら、まず何をすればいいですか?
A. 話を否定せず受け止めたうえで、婦人科など専門医への受診を勧めることから始めてみてください。
Q. 産業医の選任は栃木県内のどの規模の会社から必要ですか?
A. 労働安全衛生法第13条により、常時50人以上の労働者を使用する事業場では選任が義務です。
産業医のご契約・ご相談はお気軽に
「どんな産業医が必要か分からない」「まず話を聞いてみたい」という段階でも大丈夫です。
中小企業の状況に合わせた、現実的なサポートをご提案します。
参考文献・参考URL
- 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「常時50人以上の労働者を使用する事業場においては、事業者は産業医を選任してください」
- 厚生労働省「女性特有の健康課題に関する問診」関連情報
- 厚生労働省「女性特有の健康課題に関する問診を活用した女性の健康管理支援実施マニュアル~事業者向け~」
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医学的判断・法的判断の代わりとなるものではありません。 産業保健上の具体的な対応については、産業医・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。 掲載内容は執筆時点の法令・ガイドラインに基づいており、最新情報は厚生労働省等の公式サイトをご確認ください。
