長時間労働者の面接指導、栃木の会社は何を準備?
栃木県・宇都宮市で人事を担当されている方の中には、繁忙期の残業が増えるたびに「面接指導、うちは何を準備すればいいのだろう」と悩む方も多いのではないでしょうか。
栃木県内で産業医を探している事業者の方にとって、面接指導への対応は避けて通れないテーマです。
この記事では、産業医としての実体験をもとに、栃木の会社が準備すべきことを分かりやすく解説します。
📋 この記事の目次
- 「残業を減らせと言われても減らない」——栃木の経営者の本音から始めましょう
- そもそも誰が対象? 80時間の基準と「対象外でも面談する」ケースを確認しましょう
- 面談当日、産業医は何を見ているのでしょうか
- 会社が事前に準備するもの——記録が整っていれば面談はスムーズです
- 面談後、意見書を受け取った会社は何をすればいいのでしょうか
- 放置するとどうなるのでしょうか。栃木県内の相談先もご紹介します
- よくある質問
「残業を減らせと言われても減らない」
——栃木の経営者の本音から始めましょう
面接指導は会社全体に残業削減を命じる場ではなく、対象になった一人の社員の健康を守るための仕組みです。

面接指導は「会社全体に残業削減を命じる場」ではありません
産業医として企業を訪問していると、こうした本音を聞くことがよくあります。
背景に多いのは繁忙期であることと、従業員が少なく主任や正社員が一人しかいないために、責任が一人に集中してしまうことです。
面接指導(医師が労働者と面談し心身の状態を確認する制度、労働安全衛生法第66条の8)は、会社全体への残業削減命令ではありません。月45時間を超える残業についての指導とも目的が異なり、対象になった一人の健康を守るための仕組みです。
私が伝えている「数か月続かなければ大丈夫」
——ただし体調確認が前提です
産業医として、実際にこう伝えることがあります。
ただしそれは、本人の体調に問題がないことを確認したうえでの話です。
厚生労働省の労災認定基準では、発症前1か月におおむね100時間、または発症前2〜6か月間にわたり月平均80時間を超える時間外労働があると、業務との関連性が強いと評価されます。
つまり「数か月続くかどうか」が、健康リスクを考えるうえでの分かれ目になります。
「大丈夫とは言えない」と判断する一番わかりやすいサインは睡眠です
眠れていない、熟睡感がない、睡眠障害が出ている——こうした状態が見えたときは、時間の長さにかかわらず注意しています。
本人の訴えとチェックリストの結果が一致しないときも、重点的に見るのは睡眠です。
私は会社には「全部減らせ、とは言いません。この方の来月だけ、80時間を切ってください」とお伝えするようにしています。
全員一律の削減が難しくても、この方の担当を1件外す、週1日だけ定時で帰す、といった工夫はできるはずです。
時間が減らせない場合は、退社から翌朝の出社まで一定の休息時間を空ける仕組み(勤務間インターバル、努力義務)や、休日出勤をしないことをおすすめしています。
💡 ポイント:面接指導は「全社的な残業削減命令」ではなく「この一人をどう守るか」を考える場です。睡眠の状態を必ず確認しましょう。
そもそも誰が対象? 80時間の基準と「対象外でも面談する」ケースを確認しましょう
面接指導の対象は原則、時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積があり、本人からの申出があった方です。

月80時間超+本人の申出、または100時間超で申出不要という基準です
時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められ、本人から申出があった場合に、面接指導の実施が義務づけられます(労働安全衛生法第66条の8)。
研究開発業務に従事する方や高度プロフェッショナル制度(一定の年収要件等を満たす専門職を労働時間規制の対象外とする制度)の対象者は、月100時間を超えると本人の申出がなくても実施が義務になります。
この義務は従業員50人未満の事業場にも同じようにかかります。
| 対象者区分 | 基準 | 本人の申出 |
|---|---|---|
| 一般の労働者 | 月80時間超+疲労の蓄積 | 必要 |
| 研究開発業務従事者 | 月100時間超 | 不要(義務) |
| 高度プロフェッショナル制度対象者 | 健康管理時間が月100時間超 | 不要(義務) |
80時間未満でも「面談したほうがいい」と感じるのは、本人の様子と同僚の声です
時間だけでは決めません。本人の様子や、同僚から伝わってくる感じから「面談したほうがいい」と判断することがあります。
労働安全衛生法でも、80時間以下で対象外の方に面接指導等の措置を講じることは、事業者の努力義務とされています(第66条の9)。
会社から「対象外だけど面談してほしい」と頼まれるのは、残業が一人に集中しているときです
会社から対象外でも面談してほしいと頼まれるのは、基本的に残業が一人に集中している場合です。
会社が心配して早めに声をかけるケースは、基準に達する前に手を打てるという点で意味があります。
申出がない社員にも会社側から声をかけられるよう、仕組みを衛生委員会で整えておくと安心です。
💡 ポイント:基準は月80時間ですが、時間だけで判断せず、本人の様子や同僚の声も基準の一つにしましょう。
面談当日、産業医は何を見ているのでしょうか
面談では、睡眠・体の症状・集中力の3点を中心に、本人の状態を丁寧に確認しています。
営業職・繁忙期の面接指導で、私が最初に確認すること
以前、繁忙期に残業が増えた営業職の方の面接指導を担当したことがあります。
面談で確認しているのは、眠れているか、体に症状が出ていないか、集中力が続いているかの3点です。
労働安全衛生規則でも、勤務状況・疲労の蓄積状況・心身の状況を確認することが定められています(第52条の4)。
「大丈夫です」とチェックリストが一致したとき、面談で確認して終えること
本人の「大丈夫です」という言葉と、疲労蓄積度チェックリスト(厚生労働省が示す自己診断の様式)の結果が一致していたケースでは、無理に掘り下げません。
その場合は、睡眠時間・休日の過ごし方・繁忙期の見通し・健診結果を確認して面談を終えています。
一致しないときに重点的に見るのは、先ほどお伝えした睡眠です。この進め方は、ストレスチェック後の高ストレス者面談でも基本的に変わりません。
本人が話しやすい面談にするために会社が配慮すること
面談内容は、本人の同意なく会社に細かく伝わることはありません。
上司の同席を避け、業務時間内に実施することが望ましいとされています。
面接指導を受けたことを理由に、本人へ不利益な扱いをしないことも大切です。
💡 ポイント:面談で見ているのは睡眠・体の症状・集中力の3点です。安心して話せる環境づくりも会社の役割です。
会社が事前に準備するもの——記録が整っていれば面談はスムーズです
面談前に用意していただきたいのは、労働時間の記録と、直近の健康診断結果です。

労働時間の記録——渡されて助かったのは「残業時間の一覧」でした
以前担当した面談では、事前に残業時間の一覧を渡していただきました。
記録がきちんと整っていて、準備が足りないと感じたことは特にありませんでした。
労働時間の状況を客観的に把握することは、会社の義務とされています(労働安全衛生法第66条の8の3)。
本人への通知と申出の流れ、健診結果の用意
月80時間を超えた労働者には、その時間数を速やかに(おおむね2週間以内に)本人へ通知することが会社に求められます。
申出の書式や提出先をあらかじめ決めておくと、社員も申し出やすくなります。
直近の定期健康診断の結果や業務内容、繁忙期の見通しも、産業医に渡しておくと面談がスムーズです。
50人未満で産業医がいない場合の相談先(地域産業保健センター)
従業員50人未満の事業場でも、面接指導の実施義務は変わりません。
就業判定と同じく、50人未満の事業場でも産業医に関わる義務があることは意外と知られていません。
栃木県内には、無料で面接指導を受けられる地域産業保健センターが複数あります。
スポット契約で産業医に依頼するという選択肢もあります。
💡 ポイント:残業時間の記録と健診結果を用意しておくだけで、面談はぐっとスムーズになります。
面談後、意見書を受け取った会社は何をすればいいのでしょうか
意見書は命令ではなく、理想と現実の妥協点を一緒に探すための提案として受け止めてください。
意見書は「命令」ではなく、理想と現実の妥協点を探すものです
産業医に残業を減らす権限はなく、実行するのは会社です。
だからこそ意見書(産業医が会社へ提出する対応方針の書面)は、理想を押し付けるのではなく、理想と現実の妥協点を一緒に探して提案するものにしています。
「そこまでは難しい」と言われたときは、できる範囲でどこまでやれるかを一緒に相談して決めています。
面談のあと、その会社は繁忙期を越えました
ある会社では、面談のあとも残業を減らそうと努力を続け、やがて繁忙期を乗り越えられました。
繁忙期の終わりの見通しを会社に決めていただき、それまでは月1回様子を見る形にすると、会社も本人も動きやすくなります。
衛生委員会への報告と記録の保存
面接指導の結果は、個人が特定されない形で衛生委員会に報告し、長時間労働対策を審議していただくことをおすすめします。
面接指導の結果の記録は作成のうえ5年間保存することが求められています(労働安全衛生規則第52条の6)。
💡 ポイント:意見書は「一緒にできる案を作る」ためのものです。繁忙期の終わりを決めることも対策の一つです。
放置するとどうなるのか‐栃木県内の相談先も紹介‐
長時間労働を放置すると健康リスクが高まるだけでなく、会社の安全配慮義務違反にもつながりかねません。
80時間を超える残業が続くと、体に何が起きるのでしょうか
人事の方に一番知っておいていただきたいのは、月80時間以上の時間外労働が続くと、心筋梗塞などの合併症や死亡のリスクが高まるということです。
厚生労働省の労災認定基準では、
-脳内出血(脳出血)・くも膜下出血・脳梗塞・高血圧性脳症といった脳血管疾患
-心筋梗塞・狭心症・心停止・重篤な心不全・大動脈解離といった虚血性心疾患等
が、対象となる病気として挙げられています。
同じ基準では、時間外労働が月おおむね45時間を超えて長くなるほど業務と発症の関連性が徐々に強まります。
発症前1か月におおむね100時間、または発症前2〜6か月にわたって月平均80時間を超えると、関連性が強いと評価されます。
「80時間」は、そこを超えた瞬間に突然危なくなる線ではありません。
45時間のあたりから少しずつリスクが積み上がっていく、と捉えていただくほうが実態に近いです。
実際、令和7年度に脳・心臓疾患で労災の支給決定を受けた件数は217件、そのうち死亡は67件でした
(厚生労働省「令和7年度 過労死等の労災補償状況」令和8年7月15日公表)。
面接指導を実施しないまま放置することは、安全配慮義務(労働者の安全と健康に配慮する会社の義務)に関わる安全配慮義務違反の事例につながりかねません。
これは会社を脅かすための話ではなく、放置することのコストとして知っておいていただきたい内容です。
栃木県内の相談窓口
栃木産業保健総合支援センターや地域産業保健センターでは、面接指導に関する相談を受け付けています。
栃木労働局や各労働基準監督署も、制度についての相談先になります。
💡 ポイント:放置は健康リスクだけでなく、会社のリスクにもなります。早めに栃木県内の相談窓口を頼ってみてください。
よくある質問
Q. 面接指導は誰が対象になりますか?
A. 時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積があり、本人から申出があった方が対象です。研究開発業務等は100時間超で申出不要です。
Q. 産業医との契約費用はどのくらいかかりますか?
A. 嘱託契約の場合、規模や業務内容によって異なりますので、栃木県内の産業医事務所へ個別にご相談ください。
Q. 従業員が50人未満でも面接指導は必要ですか?
A. はい、事業場の規模にかかわらず義務です。50人未満の場合は地域産業保健センターで無料相談ができます。
Q. 意見書の内容に、会社は必ず従わなければなりませんか?
A. 意見書は命令ではなく提案です。難しい部分は産業医と相談し、できる範囲の対応を一緒に決めていきましょう。
Q. 面談を受けたことで、社員に不利益はありますか?
A. 面接指導を受けたことを理由に、解雇や配置転換など不利益な扱いをすることは認められていません。
産業医のご契約・ご相談はお気軽に
「どんな産業医が必要か分からない」「まず話を聞いてみたい」という段階でも大丈夫です。
中小企業の状況に合わせた、現実的なサポートをご提案します。
参考文献・参考URL
- 長時間労働者への医師による面接指導制度について(厚生労働省)
- 働き方改革関連法解説(労働安全衛生法/産業医・産業保健機能の強化関係)(厚生労働省)
- 脳・心臓疾患の労災認定基準改正に関する4つのポイント(厚生労働省)
- 脳・心臓疾患の労災認定(過労死等の労災補償Ⅰ)(厚生労働省)
- 令和7年度「過労死等の労災補償状況」(厚生労働省・令和8年7月15日公表)
- 労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)
- 地域産業保健センター一覧(栃木産業保健総合支援センター)
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医学的判断・法的判断の代わりとなるものではありません。 産業保健上の具体的な対応については、産業医・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。 掲載内容は執筆時点の法令・ガイドラインに基づいており、最新情報は厚生労働省等の公式サイトをご確認ください。
