血清クレアチニン検査追加、栃木の会社はどう備える?
2027年4月から、健康診断の項目に「血清クレアチニン検査」が加わります。
健診機関との契約や社内の運用を見直す時期を考えると、今から準備を始めておきたい改正です。
この記事では、産業医の立場から、栃木の会社が施行までに何をすべきかを一緒に考えていきましょう。
📋 この記事の目次
- 2027年4月から健診に「腎臓の血液検査」が加わる
- 「腎臓の数値がなぜ問題なの?」と聞かれたら
- 結果票を渡すだけでは足りない?会社の義務はどこまでか
- eGFRの数値別:会社と産業医がやること
- 施行までの準備:いつ、何をするか
2027年4月から健診に「腎臓の血液検査」が加わる
2027年4月1日から、雇入時・定期・特定業務従事者・海外派遣労働者の健康診断に血清クレアチニン検査が追加されます。

栃木の会社がまず押さえるべきなのは、対象になる健診の種類と施行日です。
変わるのは3つ(血清クレアチニン追加・喀痰検査の廃止・肝機能の検査名変更)
今回の改正は、令和8年4月28日に公布された改正省令と、同日付で発出された通達(基発0428第9号)により示されました。健診項目の取扱いを定めた通達も、同日付の基発0428第10号で改正されています。
1つ目は、血清クレアチニン検査(腎臓のろ過機能を示す検査)の追加です。
2つ目は、喀痰検査(たんの中の結核菌を調べる検査)の廃止です。
3つ目は、肝機能検査の酵素名の変更です。
GOTはAST、GPTはALT、γ-GTPはγ-GTという名称に変わります。
健診結果の通知票では、新旧の名称を併記することも認められています。
喀痰検査の廃止後も、胸部エックス線検査で結核感染が疑われる方には、速やかな受診勧奨が必要です。
対象の健診と「40歳未満は省略できる」の正しい意味
血清クレアチニン検査の対象は、雇入時・定期・特定業務従事者・海外派遣労働者の健康診断です。
労働基準法施行規則第34条の2に基づく高度プロフェッショナル制度の臨時健康診断も対象になります。
「40歳未満は省略できる」という基準は、告示によって定期健康診断と特定業務従事者の健康診断について定められたものです。
この告示は労働安全衛生規則第44条第2項(第45条第3項で準用する場合を含む)に基づくもので、雇入時の健康診断(第43条)を直接対象としていません。
そのため、雇入時健診では一律に省略できないと読める点には注意が必要です。
💡 ポイント:省略できるかどうかの最終判断は医師が行うものであり、会社が独自に決めることはできません。
栃木県内の健診機関ごとに運用が異なる可能性もあるため、契約している健診機関に個別の確認をおすすめします。
なぜ今、腎臓なのか(長時間労働と慢性腎臓病)
今回の改正は、長時間労働と慢性腎臓病の発症リスクとの関係を踏まえたものです。
これまでの尿検査だけでは把握できなかった腎機能低下者を、早期に把握できるようにする狙いがあります。
時間外労働が長くなりやすい職場では、特に意識しておきたい変更です。
💡 ポイント:血清クレアチニン検査の追加は「新しい負担」ではなく「見えなかったリスクの可視化」だと捉えると理解しやすくなります。
「腎臓の数値がなぜ問題なの?」と聞かれたら
腎臓の数値は自覚症状が出にくく、悪化すると透析や脳卒中のリスクが高まるため、説明の準備が必要です。
栃木の会社の総務担当者から、この質問を受ける場面は今後増えていくと考えられます。
自覚症状がないまま進む
私が産業医として訪問先で受ける質問の中でも、「なぜ問題なのか」という疑問は、総務担当者や本人から聞かれることがあります。
血圧であれば「この数値を超えると血管への負担が大きくなる」、血糖であれば「高血糖が続くと意識障害を起こすこともある」というように、具体的に困ることを示して説明しています。
視力であれば「運転に支障が出る可能性がある」という説明の仕方をしています。
腎臓の数値についても、同じように「具体的に何が困るのか」を示す説明が求められる場面が増えていくと考えています。
尿検査だけでは見つけられなかった腎機能の低下
これまで法律で定められた腎臓関連の健診項目は、尿検査(尿蛋白)だけでした。
尿蛋白が出ない段階でも、腎臓のろ過機能自体は低下している場合があります。
血清クレアチニン検査とeGFR(推算糸球体濾過量。腎臓がどれだけ血液をろ過できているかを示す指標)の導入により、この見えなかった部分を把握できるようになります。
透析や脳卒中・心臓病のリスクにつながる
厚生労働省の「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」によると、慢性腎臓病(CKD)がある方は、透析導入のリスクが10倍以上高まるとされています。
同資料では、脳卒中や心臓病のリスクも2倍以上に高まるとされています。
💡 ポイント:腎臓の数値は本人が自覚しにくいからこそ、会社側からの一声が受診のきっかけになります。
結果票を渡すだけでは足りない?会社の義務はどこまでか
法律上の義務は「結果の通知」と「医師による就業判定」です。
受診勧奨は義務ではありませんが、指針で求められている大切な対応です。

栃木の会社で特に誤解されやすいのが、この義務の範囲です。
通知は義務、受診勧奨は指針(法律上の最低ライン)
労働安全衛生法第66条の6は、健診結果を労働者に通知する義務を会社に課しています。
同法第66条の7は、医師等による保健指導を受けさせる努力義務を定めています。
健診結果に基づく事後措置の指針では、再検査や精密検査の受診勧奨、結果提出の働きかけを行うことが適当とされています。
「要受診」と書かれた結果票を渡せば、通知の義務は果たしています。ただし、それだけでは本人が受診しないまま終わることも多く、健診後の事後措置として、次に説明する就業判定は別に必ず行う必要があります。
所見のある人の就業判定は必須
労働安全衛生法第66条の4は、所見のある労働者について医師の意見を聴くことを会社に義務づけています。
2027年4月以降は、eGFRの所見もこの意見聴取の対象に加わります。
私は顧問先を訪問した際に、健診結果を見ながら就業判定を行っています。
学術的な目安では就業制限が望ましい数値であっても、会社側からは「急に言われても困る」という反応を受けることがあります。
健診自体は数か月前に終わっているため、今さらという受け止め方をされることも少なくありません。
そのような場合は、その場では暫定の判定にとどめ、二次健診の結果を見てから再判定するという運用をしています。
労働安全衛生規則第51条の2では、医師の意見聴取は健診日から3か月以内に行うこととされているため、この期限内で調整する必要があります。
会社が負う健康管理の義務範囲を理解しておくと、こうした調整もスムーズになります。
「要受診」のまま放置が多い現実と、会社のリスク
健診で「要受診」の判定が出ても、そのまま放置されている例は実際に多く見られます。
前年の健診で指摘されて通院を始めたものの、自己判断で通院をやめてしまい、翌年の健診でも同じ所見が出てしまった例もあります。
会社が受診勧奨の書類を渡すだけで終わると、本人が実際に受診したかどうかが分からないまま時間が過ぎてしまいやすいという実務上の課題があります。
二次健診の受診率を上げる工夫をあわせて行うことで、安全配慮義務の観点からもリスクを減らせます。
💡 ポイント:義務は「通知」と「就業判定」。そこに「受診勧奨」を加えて、はじめて健診が社員の健康を守る仕組みとして機能します。
eGFRの数値別:会社と産業医がやること
eGFRの数値によって対応の緊急度は変わり、45未満または尿蛋白1+以上は速やかな受診が必要です。

栃木の会社の担当者には、数値ごとの対応の目安を知っておいていただきたいと思います。
eGFR45未満、または尿蛋白1+以上 → すぐ受診+会社から一声
「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」の判定分類では、eGFR45未満または尿蛋白1+以上は、すぐに医療機関を受診すべき水準とされています。
この対応は、産業医が本人に直接会わなくても進められます。
総務担当者から受診勧奨書を渡し、受診結果の提出を求める形でも対応可能です。
⚠️ 注意:健診結果は要配慮個人情報にあたるため、封筒に入れて渡す、閲覧できる担当者を限定するなど、取扱いには注意が必要です。
そのまま使える受診勧奨書テンプレート(無料・Word)
受診勧奨書には、受診を促す文面に加えて、医療機関に記入してもらう受診結果報告欄と提出期限を設けておくと運用しやすくなります。
健康情報の取扱いに関する注記もあわせて記載しておきましょう。
⚠️ ご利用にあたっての注意:このテンプレートはひな形です。各社の状況や社内規程に合わせて修正のうえ、各社の責任でご使用ください。本テンプレートの使用により生じた結果について、当方は責任を負いかねます。受診費用の負担や健康情報の取扱いは、あらかじめ社内で決めてからお渡しください。
📄 受診勧奨書テンプレート(Word形式・無料)をダウンロード
このテンプレートは、産業医が受診をすすめた方にだけお渡しいただく想定です。
数値の基準そのものは書類に記載していません。
eGFR45〜60 → 持病がある人は受診、40歳未満は受診
高血圧・糖尿病・脂質異常症といった持病がある方は、この範囲でも受診が必要とされています。
40歳未満の方も、同年代と比べて数値が低い可能性があるため、受診が推奨されています。
この基準は特定健診(特定健康診査)向けに整理されたものであり、労働安全衛生法上の有所見判定の数値基準そのものについては、産業医や健診機関と個別に確認しておくことをおすすめします。
筋肉量でeGFRはぶれる(体を使う仕事は悪く、高齢・やせ型は良く見えすぎる)
eGFRはクレアチニン値をもとに、年齢や性別を加味して計算される推定値です。
筋肉量が多い方は、腎機能が同じでもクレアチニン値が高く出やすく、結果としてeGFRが実際より低く見えることがあります。
反対に、筋肉量が少ない高齢の方ややせ型の方は、eGFRが実際より良く見えすぎることがあります。
体を使う仕事に従事する方の数値を見る際は、こうした特性をふまえた読み解きが必要です。
だからこそ、数値だけで機械的に判断せず、医師が全体を見て読み解くことが大切です。
長時間労働の社員は特に注意
長時間労働者への面接指導の際に、健診の数値もあわせて確認することがあります。
ただ、面接指導の場に健診結果の資料が手元にない状態で面談を行うこともあり、準備の余地がある部分だと感じています。
長時間労働者の面接指導の準備を整える際は、健診結果も一緒に用意しておくことをおすすめします。
💡 ポイント:eGFRの数値は年齢・持病・筋肉量によって解釈が変わるため、表にまとめておくと社内共有がしやすくなります。
| eGFRの目安 | 対応の目安 |
|---|---|
| 45未満、または尿蛋白1+以上 | 速やかに受診 |
| 45〜60 | 持病がある方・40歳未満の方は受診 |
施行までの準備:いつ、何をするか
施行までに健診機関への確認、産業医との判定ルールの取り決め、相談先の確保という3つを進めておく必要があります。
栃木の会社では、2027年4月を待たずに準備を始めることをおすすめします。
健診機関に確認すること
契約している健診機関が血清クレアチニン検査に対応済みかどうかを確認しておきましょう。
結果通知票に新旧の項目名が併記されるかどうかも、あわせて確認しておくと社内説明がしやすくなります。
費用面については健診機関ごとに条件が異なるため、個別の見積もりで確認することをおすすめします。
就業判定のルールを産業医と決めておく
受診勧奨書の書式、渡し方、受診結果の提出方法について、事前に産業医と取り決めておくと運用がスムーズになります。
暫定判定から二次健診後の再判定に進む流れについても、あらかじめ共有しておきましょう。
50人未満の会社の相談先
労働安全衛生法上、産業医の選任義務は常時50人以上の労働者を使用する事業場に生じます(労働安全衛生法第13条)。
50人未満の会社であっても、地域産業保健センターを通じて健診結果の確認や就業判定の相談ができます。
私自身も、産業医として50人未満の会社に関わっている経験があります。
就業判定は50人未満も義務?宇都宮の相談先ガイドもあわせてご確認ください。
💡 ポイント:従業員規模にかかわらず、施行までに相談先を決めておくことが安心につながります。
よくある質問
Q. 血清クレアチニン検査はいつから健診に追加されますか?
A. 令和9年4月1日(2027年4月1日)から追加されます。改正省令は令和8年4月28日に公布されています。
Q. 対象になる健診の種類は何ですか?
A. 雇入時・定期・特定業務従事者・海外派遣労働者の健康診断と、高度プロフェッショナル制度の臨時健康診断が対象です。
Q. 40歳未満は血清クレアチニン検査を省略できますか?
A. 定期健診等では告示に基づき省略できる場合がありますが、判断は医師が行い、雇入時健診は対象が異なるため確認が必要です。
Q. eGFRの数値が悪い社員にはどう対応すればいいですか?
A. 数値に応じて受診勧奨と就業判定を行います。所見がある場合は医師の意見聴取が必要です。
Q. 産業医がいない50人未満の会社はどうすればいいですか?
A. 地域産業保健センターに相談することで、健診結果の確認や就業判定の助言を受けられます。
産業医のご契約・ご相談はお気軽に
「どんな産業医が必要か分からない」「まず話を聞いてみたい」という段階でも大丈夫です。
中小企業の状況に合わせた、現実的なサポートをご提案します。
参考文献・参考URL
- 労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行等について(基発0428第9号)
- 労働安全衛生法に基づく定期健康診断等の診断項目の取扱いが一部変更になります(山梨労働局)
- 一般健康診断の健診項目に「血清クレアチニン検査」が追加されます(広島産業保健総合支援センター)
- 標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)健診検査項目の保健指導判定値及び受診勧奨判定値(厚生労働省)
- 健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針(厚生労働省)
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医学的判断・法的判断の代わりとなるものではありません。 産業保健上の具体的な対応については、産業医・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。 掲載内容は執筆時点の法令・ガイドラインに基づいており、最新情報は厚生労働省等の公式サイトをご確認ください。
