職場の肩こり・腰痛予防を産業医が業種別に解説
栃木県内の事業者のみなさん、こんにちは。産業医として宇都宮市を中心に栃木県内の企業を訪問しています。「従業員から肩こりや腰痛の相談が増えている」「どんな対策を取ればいいか分からない」というお声を、経営者や人事担当者からよくいただきます。
肩こりや腰痛は「個人の問題」と思われがちですが、実は会社全体の生産性や離職率に直結する問題です。デスクワークと製造業では原因も対策もまったく異なりますので、業種別に実務で使える対策をお伝えします。
📋 この記事の目次
- なぜ職場の肩こり・腰痛は放置できないのか?
- 【デスクワーク編】肩こり・腰痛を予防する職場環境の整え方
- 【製造業編】現場特有の腰痛リスクと対策
- 企業が取り組む腰痛・肩こり予防の制度的アプローチ
- 腰痛・肩こりが労災認定されるケースと企業の責任
- まとめ:業種に合わせた継続的な腰痛・肩こり予防が企業の生産性を守る
なぜ職場の肩こり・腰痛は放置できないのか?
結論:腰痛は業務上疾病の最多原因であり、生産性低下や労災リスクに直結するため、会社として早期に対策を整えることが不可欠です。
業務上疾病の中で腰痛が占める割合
厚生労働省のデータによると、休業4日以上の業務上疾病(新型コロナウイルス感染症を除く)の中で、
腰痛が最も多い原因となっています。
特に、死傷年千人率(労働者1,000人あたりの腰痛による死傷者数)を見ると、
保健衛生業が0.25、陸上貨物運送事業が0.41と、全業種平均の0.1を大幅に上回っています。
栃木県内にも製造業・物流業・医療福祉業が多く、決して他人事ではありません。
一方、肩こりは業務上疾病としての労災認定が非常に難しい症状です。
だからこそ「なってから治す」ではなく、「なる前に防ぐ」予防の取り組みが企業にとって最も効果的な対策になります。
💡 ポイント:腰痛はプレゼンティーズム(体調不良による生産性低下)の主要因の一つです。
国全体の労働損失額は年間約3.0兆円とも試算されています。会社のコスト問題として捉えることが重要です。
腰痛・肩こりの4大発生要因
厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」(平成25年改訂)では、腰痛の発生要因を大きく4つに分類しています。

- 動作要因:重量物の取り扱い・長時間の静的姿勢・不自然な姿勢での作業
- 環境要因:全身振動・寒冷ばく露・不適切な作業床面・作業スペースの狭さ
- 個人的要因:年齢・体格・既往症・睡眠不足・体力の差異
- 心理・社会的要因:仕事上のストレス・職場の人間関係・睡眠障害・職場環境への不満など
業種によってどの要因が主になるかが異なります。デスクワークでは「動かなすぎ」による静的姿勢の問題が中心であり、製造業では「負担のかかりすぎ」による動作要因・環境要因が主体となります。この違いを理解することが、業種別対策の出発点です。
💡 ポイント:同じ「腰痛」でも原因がまったく異なるため、他業種の対策をそのまま導入しても効果が出ないことがあります。まずは自社の業種・作業内容に合った要因分析から始めましょう。
【デスクワーク編】
肩こり・腰痛を予防する職場環境の整え方
結論:デスクワークの肩こり・腰痛は、椅子・モニターの適切な調整と定期的な休憩の習慣化で、多くのケースが予防できます。
椅子・モニター・机の高さを正しく設定する
産業医面談でデスクワークの方からよく聞かれるのが「マッサージに行っても肩こりがすぐ戻る」という悩みです。話を聞くと、モニターの高さや椅子の調整をしたことがない方がほとんどです。職場環境の側を変えるだけで改善するケースを数多く見てきました。
正しい設定の目安は以下のとおりです。
- 椅子の高さ:足の裏が床につき、膝が約90度になる高さに調整する
- モニターの位置:目線より少し下に設定し、目との距離は40〜70cmを目安にする
- 机の高さ:肘を自然に下ろしたときに軽く曲がる程度(約90〜110度)が理想的

長時間同一姿勢を続けることも腰痛・肩こりの大きな原因です。
1〜2時間に一度は立ち上がり、姿勢を変えることをおすすめします。昇降デスクや腰サポートクッションなどの補助ツールも、費用対効果の高い対策として活用できます。
💡 ポイント:「正しい椅子の設定チェックシート」を作成し、新入社員のオリエンテーションに組み込むだけで、全社的な意識が変わります。
業務中にできるストレッチ・休憩の取り入れ方
職場で実践できるストレッチを企業として「制度化」することが大切です。個人任せにすると続かないためです。

- 肩甲骨まわし:両肩を後ろに大きく回す動作を5〜10回。肩こりへの即効性があります
- 胸のストレッチ:両手を後ろで組んで胸を開く。猫背の予防にも効果的です
- 腸腰筋ストレッチ:椅子から立ち上がり、片足を後ろに引いて体を前に傾ける。腰の慢性的な疲労を軽減します
業務中の休憩の参考になるのが「ポモドーロ・テクニック」(25分作業+5分休憩)です。生産性向上のための手法ですが、身体への負担軽減にも有効です。微休憩を社内ルールとして推奨することを、衛生委員会でご提案してみてください。
テレワーク・在宅勤務時の特有リスクと対策
テレワークが普及した現在、在宅勤務中の腰痛・肩こりは新たな課題となっています。自宅の机や椅子は業務用に設計されていないケースがほとんどで、腰痛リスクが高まります。
通勤がなくなることで一日の歩行量が大幅に減少し、筋力低下も並行して進みます。これがデスクワーク系の腰痛を悪化させる一因です。
企業として取り組むべきことは以下のとおりです。
- 在宅勤務時の作業環境ガイドライン(椅子・デスク・照明の最低基準)を整備する
- PC周辺機器(モニタースタンド・外付けキーボード等)の購入補助制度を設ける
- 週1回以上の出社や通勤相当の歩行を推奨する社内施策を検討する
⚠️ 注意:テレワーク中の腰痛・肩こりも、業務に起因する場合は安全配慮義務(労働契約法第5条)の対象となります。「自宅のことだから関係ない」とは言えません。
【製造業編】現場特有の腰痛リスクと対策
製造業の腰痛は、重量物取り扱いの基準順守と作業環境の改善によって大幅に減らすことができます。
重量物取り扱い時の正しい姿勢と基準
厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」では、人力で重量物を取り扱う際の目安が示されています。
繰り返し持ち運ぶ場合の目安は以下のとおりです。
・男性で体重の約40%以下
・女性で体重の約24%以下(体重55kgの女性なら約13kg)。
これを超える重量物は、機械による補助(フォークリフト・ハンドリフター等)を原則とします。
重量物を手作業で持ち上げる際の正しい姿勢は以下のとおりです。
- 荷物の近くに立ち、重心を体に引き寄せる
- 腰ではなく膝を曲げて(スクワット姿勢で)持ち上げる
- 背筋を伸ばした状態を保ち、腰だけに力をかけない

重量物の持ち上げ作業が多い部署だけ腰痛の訴えが集中していました。
作業台の高さや持ち上げ方を少し見直すだけで、翌年の面談では腰痛の相談が目に見えて減った経験があります。
⚠️ 注意:「基準値以下だから問題ない」ではなく、繰り返し作業や不良姿勢と組み合わさると腰痛リスクは急増します。現場での実態確認が不可欠です。
立ち作業・繰り返し動作による負担を減らす工夫
立ち作業が続く現場では、床面への負担が腰・膝に蓄積します。以下の工夫で日常的な負荷を軽減できます。
- 抗疲労マット:ゴム製や発泡素材のマットを足元に敷くだけで、立位時の腰・脚への負担を大幅に軽減できます
- 作業台の高さ調整:作業台の高さを立位時の肘の高さに合わせることで、前傾姿勢を防ぎます
- ローテーション制度:同一動作の繰り返し作業は担当者をローテーションし、特定部位への集中負荷を防ぎます
💡 ポイント:抗疲労マットは1枚数千円〜数万円の投資ですが、腰痛による休業・代替要員のコストと比較すると費用対効果は非常に高い対策です。
振動・寒冷環境など環境要因の管理
フォークリフトや建設機械の操作に伴う全身振動は、腰椎への慢性的なダメージを蓄積させます。冷凍食品工場や屋外作業など、寒冷環境での作業は筋肉の柔軟性が低下し、腰痛・肩こりのリスクがさらに高まります。
環境要因への対策として、以下を組み合わせることが効果的です。
- フォークリフト等の振動対策:防振シートの導入・連続運転時間の制限
- 寒冷作業場での腰周りの保温(サポーターや防寒着の支給)
- 作業前のウォームアップ体操を作業手順書に組み込む
💡 ポイント:環境要因は見落とされがちですが、適切に管理することで製造業特有の腰痛を大幅に減らすことができます。産業医の作業環境巡視を積極的に活用してください。
企業が取り組む腰痛・肩こり予防の制度的アプローチ
腰痛・肩こり予防は個人の努力だけでなく、制度・記録・産業医との連携による体系的な取り組みが企業に求められます。
腰痛予防対策指針に基づくリスクアセスメントの実施
労働安全衛生法第28条の2に基づき、事業者はリスクアセスメント(職場の危険や有害性を洗い出し、対策を講じること)の実施が努力義務とされています。厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」(平成25年改訂)では、次の4本柱で対策を進めることが示されています。
| 柱 | 主な内容 |
|---|---|
| 作業環境管理 | 温度・照明・床面・作業スペースの整備 |
| 作業管理 | 作業手順・姿勢・ローテーションの管理 |
| 健康管理 | 腰痛健康診断・面談・就業配慮の実施 |
| 労働衛生教育 | 正しい姿勢・ストレッチ等の知識と実践訓練 |
衛生委員会でリスクを定期的に評価し、議事録として記録を残すことが重要です。
「対策をした」という証拠が、万一の労災認定・訴訟時に会社を守ります。
産業医・保健師との連携で行う健康管理
産業医の役割は、法律に基づく選任(労働安全衛生法第13条)だけではありません。腰痛・肩こり対策においても以下の形で会社をサポートします。
- 定期健康診断の問診票で腰痛・肩こりの有訴者を早期に把握する
- 作業環境巡視を通じて、職場の問題点を客観的に特定し改善提案を行う
- 個別面談や就業上の配慮(負荷軽減・部署異動)で重症化を防ぐ
「産業医に相談する機会がない」という声も聞きますが、月1回の職場巡視や面談を有効活用することで、腰痛対策の精度は大きく上がります。
💡 ポイント:宇都宮市・栃木県内の事業者は、栃木産業保健総合支援センターに相談することで、産業医の紹介や無料の健康管理相談を受けることができます。
腰痛・肩こりが労災認定されるケースと企業の責任
腰痛は業務との因果関係が明確な場合に労災認定される可能性があり、対策を怠ると企業の安全配慮義務違反が問われるリスクがあります。
腰痛が業務上疾病と認定される要件
労働基準法施行規則別表第1の2では、「腰部に過度の負担を加える業務による疾病」が業務上疾病として列挙されています。労災として認定されるためには、業務と腰痛の間に「業務起因性」(因果関係)が必要です。
主に認定されやすいケースは以下のとおりです。
- 重量物の取り扱いや転倒・転落など、急性の負荷による腰痛(災害性腰痛)
- 継続的な重量物取り扱いや不良姿勢が積み重なった慢性腰痛(非災害性腰痛)
一方、肩こりは業務との因果関係の立証が非常に難しく、労災として認定されるケースはほとんどありません。
だからこそ、予防と管理の仕組みを整えることが、企業にとって最も有効な対策です。
安全配慮義務違反にならないために企業がすべきこと
労働契約法第5条は、事業者に労働者の安全への配慮義務を課しています。
腰痛対策が不十分で従業員が重篤な腰痛を発症した場合、会社が損害賠償を求められるリスクがあります。
安全配慮義務を果たしたことを証明するために、以下の記録・体制を整えておきましょう。
- 腰痛予防対策の内容と実施日時を記録・保管する
- 衛生委員会の議事録・健康管理記録を適切に保存する
- 従業員からの身体不調の申告・相談窓口を整備し、「知らなかった」状態を防ぐ
腰痛が繰り返し発症したり重症化した場合は、産業医の意見書をもとに配置転換や業務負荷の軽減を検討することが重要です。
⚠️ 注意:「対策はしていたつもり」では不十分です。記録・議事録・相談窓口の整備が、訴訟リスクから会社を守る唯一の手段です。
まとめ:業種に合わせた継続的な腰痛・肩こり予防が企業の生産性を守る
デスクワークと製造業では腰痛・肩こりの原因と対策が異なります。
業種の特性を踏まえた体系的な取り組みが、生産性を守り、労災リスクを減らします。
デスクワーク・製造業それぞれの優先アクション一覧
私は事務系の企業と製造業の両方で産業医を務めていますが、同じ「腰痛」でも原因がまったく違うと感じます。デスクワークでは「動かなすぎ」、製造業では「負担のかかりすぎ」が典型で、対策も業種ごとに変える必要があると面談のたびに実感しています。
以下に業種別の優先アクションをまとめます。
| 業種 | 優先アクション |
|---|---|
| デスクワーク① | 椅子・モニター設定の見直しとチェックシート配布 |
| デスクワーク② | ストレッチ・微休憩の社内制度化 |
| デスクワーク③ | テレワークガイドラインの整備と補助制度の導入 |
| 製造業① | 重量物取り扱い教育と正しい姿勢訓練の実施 |
| 製造業② | 作業台・床面・防寒対策など環境整備の見直し |
| 製造業③ | 繰り返し作業のローテーション制度の導入 |
| 共通 | 産業医と連携したリスクアセスメントの定期実施 |
一度に全部取り組む必要はありません。まずは自社の業種に合った「優先アクション①」から始め、少しずつ体制を整えていきましょう。腰痛・肩こり対策についてお困りの栃木県・宇都宮市の事業者の方は、ぜひ産業医へご相談ください。
よくある質問
Q. デスクワークの肩こり・腰痛は個人の問題であり、会社が対策する義務はありますか?
A. 会社は業務に起因する従業員の健康を守る義務を負います。
対策を怠った場合、損害賠償を求められるリスクがあります。
Q. 製造業で腰痛の多い部署があります。まず何をすればいいですか?
A. まず産業医に職場巡視を依頼し、作業環境のリスクを客観的に評価してもらうことをおすすめします。
重量物の取り扱い基準と作業姿勢の見直しから始めると効果が出やすいです。
Q. テレワーク中の腰痛も会社の責任になりますか?
A. 業務中に発症した腰痛は、場所が自宅であっても安全配慮義務の対象となります。
在宅勤務ガイドラインの整備と作業環境への補助制度が、リスク軽減につながります。
Q. 腰痛予防対策指針は法律上の義務ですか?
A. 指針そのものは努力義務の性格を持ちますが、労働安全衛生法第28条の2のリスクアセスメントや労働契約法第5条の安全配慮義務に基づく対策として実施することが強く推奨されます。
Q. 肩こりは労災になりますか?
A. 肩こり単独での労災認定は非常に困難です。業務起因性の立証が難しいため、予防対策の徹底と定期的な健康管理で重症化を防ぐことが最も重要な対策です。
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「どんな産業医が必要か分からない」「まず話を聞いてみたい」という段階でも大丈夫です。
中小企業の状況に合わせた、現実的なサポートをご提案します。
参考文献・参考URL
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医学的判断・法的判断の代わりとなるものではありません。 産業保健上の具体的な対応については、産業医・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。 掲載内容は執筆時点の法令・ガイドラインに基づいており、最新情報は厚生労働省等の公式サイトをご確認ください。
